イスラエルの代替肉製造スタートアップSteakholder Foodsと、シンガポールの培養魚肉スタートアップUMAMI Meatsは、3Dバイオプリンターを使ってプリントされた「培養ハタ」を共同で開発。日本時間4月26日に、イスラエルで初の試食会を開きました。
英語でgrouperと呼ばれるハタは、アジア圏で広く親しまれている白身魚。汎用性が高いため、試食会では様々な調理法で提供されました。
UMAMI Meatsはこの培養魚肉を、2024年中にはシンガポール国内で販売する計画。政府との調整を進めています。
現在の生産量は1カ月に100g
Steakholder Foodsと UMAMI Meatsは、2022年にパートナーシップを締結。今年1月にはシンガポール・イスラエル産業研究開発財団(SIIRD)から、3Dバイオプリントを使った培養ハタと培養ウナギの開発のために、150万ドルの助成金を獲得していました。
ハタとウナギは国際自然保護連合(IUCN)が作成した絶滅のおそれのある野生生物のリスト「レッドリスト」に掲載されている絶滅危惧種です。まず「ハタ」を選んだのは、アジア圏で広くニーズがあり、文化的にも重要な魚であることから。
試食会で提供された培養ハタは、UMAMI Meats のセルライン(細胞)を使い、Steakholder Foodsの3Dバイオプリンターで生産されました。3Dバイオプリンターでの生産は、細胞をインクがわりにして培養魚肉を出力していきます。
通常は一台のプリンターから一つの出力物を数時間かけて成形しますが、Steakholder Foodsの3Dバイオプリンターは複数台のプリンターを使って、ベルトコンベア上に出力する形になっており、大幅な時間短縮ができます。
Steakholder Foods のArik Kafman CEOによると、現在の生産量は1カ月に100g程度。これを1カ月1kgまで増やすのが直近の目標です。さらに、1カ月に100kgを生産できるレベルまで引き上げ、試験生産を行う予定とのこと。
「マシン自体は産業化できるレベルまできていて、今日から生産して消費者に届けられる状態ではあります。ただ、セルラインの生産スピードがマシンに追いついていないのが現状です。そこが今後の課題になっています」(Arik Kafman)。
味だけでなく“肉感”の再現にも成功
気になるのはその「味」ですが、試食会で培養ハタは好評で、様々な培養魚肉を食べた経験がある人たちからも「格別」との感想がありました。
おいしさを実現できたのは、魚の味だけでなく“肉感”を忠実に再現することに成功したから。3Dバイオプリンターの技術はもちろん、魚から採取した細胞だけでなく植物性の原料を加えたこともポイントだといいます。
なお、現段階では“生”では食べられません。Arik Kafmanは「生食できる魚の生産には、細胞同士がつながるのに時間がかかったり、密度のコントロールが必要だったりと、まだ課題があります。次のステップで挑戦するつもりです」と話しました。
ちなみに、試食会の前日にはイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が試食。世界で初めて3Dバイオプリントの培養ハタを口にした人物となりました。
次に開発するのは培養ウナギ
UMAMI Meatsは来年の商品化に向けて、安全性や品質に関するデータを集め、シンガポール政府とガイドラインの作成を進めています。
同社のMihir Pershad CEOによると、今申請している生産量を政府に認めてもらえれば、消費者も購入しやすい価格で提供できるようになるといいます。
両社が次に開発するのは培養ウナギ。主なターゲットは日本です。
「我々は培養魚肉のなかでも、プレミアムなものを目指しているので、高い品質の魚が集まる日本で認められるような培養ウナギを開発することはとても重要です。また、3Dバイオプリンターの技術をつかって日本の食品プレーヤーともコラボしていきたいと考えています」(Mihir Pershad)
日本でも、そのプレミアムな“味”と“食感”を体験できる日が楽しみです。